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2020年05月03日

ほしおさなえ「菓子屋横丁月光荘 歌う家」(感想)

gekkou1

川越を舞台にした小説「活版印刷三日月堂」シリーズの作者による、
同じく川越の古民家に住むことになった大学院生と「家」にまつわる話。

家の声を聴くことができる能力を持つ主人公、遠野が、
幼い頃の家族に関する思い出と絡めて、家から聞き取った声や思いを語る小説である。

第1話「かくれんぼ」では、
屋根が強風で壊れそうな家が、苦しそうにうめく声。(遠野の幼い頃の家の声)
やさしく、あたたかく、胸がぎゅっとしめつけられるような声。(川越の月光荘の声)
歌うような声。よく聞く歌。
家の片づけをしている時に聞こえる調子っぱずれだが、楽しそうな声。
僕の声が聞こえるのか、家の方もますます上機嫌になって、歌い続ける。

・・・というように、「家の声」が紹介される。

遠野の、家族の思い出は少し苦いものだが、その代わり「家」の声が自分を癒していることに気が付く。
それは、川越の古民家(過去の歴史から月光荘と命名される)に住むことになっても同様で、
「菓子屋横丁」という、観光でにぎわう観光スポット近くの家でありながら、
家の歌声を聞くことで、家の思い出に付き合うかように、遠野もさながらタイムスリップする。
この小説では、家が文字通り「擬人化」している。

遠野と古民家の持ち主とつないだ所属する大学のゼミの木谷先生、近くに住むゼミ友達、べんてんちゃん、古民家の歴史を知る近所の喫茶店のマスター、安藤さんらの、川越や古民家を愛する人々のやりとりが、温かでほっこりする。

また、第2話「かくれんぼ」では、同じく川越にある、自分の父親の実家だった和菓子店を相続・修理し、
焙煎珈琲店を営もうとする佐久間さんの話。
ここでも、遠野が、和菓子店の古民家の「声」を聞きつつ、
佐久間さんの家族の過去、そして、店舗づくりを中心としながら
新しいストーリーが紡がれていくのを温かく見守っていく話になっている。

遠野自身のキャラクターはどちらかというと内向的だが、
「家」やそれらの人々にまつわるストーリーや思い出を共有するうちに、
家族との苦い思い出も溶けていくかのよう。


以下感想。
全体を通して「家」との会話が多いので、読んでいるときから、読者自身の目や耳が、今いる「家」や「建物」を意識してしまうことに気が付く。
家の掃除、特に、窓や床を拭いたり、磨いたりしていると、まるで、菓子屋横丁月光荘の遠野になったように、
家や家族の思い出がどこから聞こえてくるような気がする。

私自身は、生まれてから20数年間、今の家に住んでいて、その後、東京→埼玉に引越して、
退職を機に、生まれた家に戻ってきた。
家の近辺で、昭和に建てられた家は、本当に少なくなってしまったが、
道路自体はそれほど変更がないだけに、幼いころに見た、家屋やアパートの面影や
そこに住んでいた、幼い友達の顔を時折思い浮かべながら、歩くことが多い。

今の住宅は、建材も窓の大きさもよく考えられ、室内の温度も快適になるよう
コントロールされているし、換気ももちろんよい。性能のよいエアコンのおかげでもある。
清潔で、整理整頓された家も多い。
だが、幼い頃(昭和の頃)、友達の家に遊びに行くと、その家の「匂い」がすることが
あった。玄関にまで、家のモノがあふれている家があったり。
一軒家であれば、縁側がある家も多く、そこで近所の人と話し込んだりするのも日常。

・・・そんな記憶をたどる散歩は、誰でもしていそうだ。
とすると、遠野のような、家の声が聞こえる能力というのは、
そんなに特別なことではないのかもしれない。

久しぶりにゆったりとしたテンポの小説に癒され、
思わず、続編「浮草の灯」を読み進めている。





neco5959 at 22:46│Comments(0)本の紹介 

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